安曇野絵本館のすぐそばにある「森のおうち」。
とおりがかると、黒井健さんの原画展が行われているという。
「手ぶくろを買いに」の展示もあるというので、扉をあけた。

ここを訪れたのは二度目だ。
1階、2階共に黒井健さんの原画でいっぱいであった。

緊張した。きっと紙の上にのせられた色そのものの質感の繊細さのせい。
小さくまたたく街のあかり、木々の枝先の1本1本、こぎつねの手の先の小さな青い手袋。
「手ぶくろを買いに」の絵本の中で私の心をぐっとつかんだ断片。
目の前にして、スイコマレそうで、くらくらした。

絵と自らの琴線がふれあったとき、絵は異様に強い力を放つ。
そして絵本作家という仕事に対しての敬意を改めて抱いた。

「森のおうち」は宮沢賢治に深い思いを持っている絵本館である。
(喫茶の名前も「ポラーノ」。)
賢治の作品にたくさん絵を描いている黒井氏、
あわせて展示されていた「水仙月の四日」「イーハトヴ詩画集『雲の信号』」の原画には、
「森のおうち」という場所との融合もあって、ひたすら無心で見入ってしまった。
黒井氏の描く「生けるもの」の持つ力もさることながら、
「風景」のかもしだす空気も澄んでいて、静かなのに、底知れぬ力がある。

ひとも少なかったので、
思いにふけりながら、すっかりひとりじめの時間を過ごせたことを、
なによりうれしく思う。




以前訪れたのは、まだ学生の時だった。
わけあって、白馬での住み込みのアルバイトを2月で切り上げることとなり、
最後の思い出に、と安曇野を自転車でまわったことがある。
もう8年も前のこと。

道中の雪道で転倒した友人が、ヒザに大きな傷を作ってしまい、
この「森のおうち」で手当てをしてもらった。
館長のものごしのやわらかさと親切さ、館中の空気のにおい、手当てができた安心感とで、
帰りは、からだの芯からあたたかだった。

あの時とは少し違うけれど、
今回も、大きな感動を抱いて帰路についた。



+ 絵本美術館&コテージ 森のおうち ホームページ >> http://www.morinoouchi.com


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